『英語教師のための第二言語習得論入門』白井恭弘

クラシェンの「インプット仮説」 L1L2ともに有効

言語習得にはインプットのみが必要、文法などの知識は発話の正しさをチェックする能力にのみ寄与するというのがクラシェンの考え方。何が正しくて、何が間違っているかが暗示的な知識として身に付いていくもの。

これは予測文法(expectancy grammer)が身に付くからと考えられる、そのため「理解可能なインプット(comprehensible unput)」が習得の条件としている。つまり、聞き流しであったとしても、本当に聞き流しではなく、意味の理解があったうえでの聞き流しのような工夫が必要。

でも、テレビや、人の言うことは理解できるが、しゃべらせてみたら文法がかなりおかしかった、ということがあり、これは、聞いているだけではだめだということを示唆している。

リハーサル(頭の中で考える)だけでも良いのでアウ トプツ トの必要性が必要。

自動化理論 L2にはある程度有効

日本の伝統的な英語教育・学習法というのはこの理論に基づいていると考えられる。

最初に明示的知識を身に付け、それを練習することによって、徐々に徐々に自動的に使えるようにするというもの。

自動化理論の限界
・複雑な言語ルールを全て明示的知識として習得するのは不可能(解明されてない文法ルールがある)
・ルール としては頭で理解できても、そのルールを必ずしも使えるようにはならないという自動化そのものの限界

考えないといけないこと

インプット理論と自動化理論を最大限に活かすこと

日本の英語教育は、 ほとんどが自動化理論に基づいていて、インプットが圧倒的に不足しているうえに、自動化も中途半端であまりやらないので伸びない。

第二言語習得のメカニズムをまとめると以下の通り。

(1)言語習得はかなりの部分がインプットを理解することによって起こる。
(2)明示的知識を身に付けた上での意識的な学習は、
 a.発話の正しさをチェックするのに有効である。
 b.自動化により実際に使える能力にも貢献する。
 c.聞いているだけでは気づかないことを気づかせ(noticing)、 (1)の 自然な習得を促進する。

この気づかせは明示的に教えることで気づきやすくなる。nとngの違いとかも!

具体的な教授法への落とし込み

オーデイオリンガル(オーラル・アプローチ)、つまり口頭ドリルは文の意味がわからなくても法則性だけでできてしまう。

インプットを理解可能 (comprehensible)に するには、言語外の情報、背景知識などを使う。つまり、興味のあるものを。でもこれも落とし穴があって、単語を拾えばなんとなくの意味はわかってしまう。そのため、学習者が「意味的な処理」だけで止まってしまわないように「統語的な処理 」、つまり文法的な処理をさせる必要があるというのがバンパタンの考え方。

ではどうやって文法処理をさせれば良いか、アウトプットさせれば良いというのがスウェインの考え。(パンパタンは違うと、「文法処理が必要なインプットの処理」じゃなきゃダメ、アウトプット練習は有効ではないとしていて、結論が出てない)

パンパタンの言う文法処理が必要なインプットというのは以下のようなこと。
✕Yesterday John walked three miles.
◯Today John walked three miles.

スウェインの考えるアウトプットの効果

(1)自 分の英語のギャップ、つまり自分はどこが言えないかについて気がつく。
(2)相手の反応をみることにより、自分の英語が正しいかどうか、通じるかどうか、仮説検証がでる。
(3)学習者が、自分やお互いの言語について、コメントしたり話したりすることにより、言語に関する意識(メタ知識)が高まる。

その他、アウトプットは自動化につながるという意見もある。

これまでの研究でアウトプットそのものが言語習得に繋がつたという結果はあまり出ていないのでインプットがより効率よく習得につながるように、アウトプットを適切に学習過程に組み入れていくという考え方が重要。

原則として一番効果的なのは「インプット→アウトプット→インプット」

大量にインプットを与え、アウトプットは少しで もいいから頻繁に行うか、アウトプットはしなくても良いので「アウトプットの必要性」だけは高めておくのが良い。(もちろん実際にアウトプットさせるのも必要性が高まることにつながる)

日本の英語教育は明示的知識を教えて、それを練習で自動化するというやり方なのに、知識を入れることに多くの時間を使い、自動化の練習をしてないか、圧倒的に不足している。しかも、正しいことに重きを置きすぎてる。(「もっと話しなさい!」という指摘はそういう点で理にかなってる)

何でそんなことになってるかというと、まず自動化じゃないとダメだと思ってる人が多すぎるから。そして、自動化モデルで身に付けるべき知識の量があまりにも多いため、知識を身に付けるだけで、中学・高校が終わる。

ではどうすれば良いか?

よく英語が話せるようになるには話す練習をしなければ駄目だ、といいますが、話すことというは、すでに自分の持っている知識で何をするか、というだけの話で、単語や文法など新しい知識が入って くることはない。まずは完全に不足している「理解可能なインプット」を大量に行うこと。ただし、インプットだけでは効果的でない可能性があるので、アウトプットの用意もしておく。

小学校英語教育のこれから~インプットモデルを中心に~

ジェニファー・ラーソン=ホ ール
ピッツバーグ大学でPh.D.取得、現在アメリカ北テキサス大学で教えている研究者

子供はみな耳が良い、12歳より前であれば音素認識の差が出ないが、文法性の判断は、どのくら早く始めたかが鍵。

スペインのカルメン・ムニョスの研究では全体として若い学習者の方が有利という結果は出ていない。やはりインプット量が影響すると考えられる。

早く始めた子と、そうでない子で聴解能力には差が出るという研究や、差はあっても、一緒に勉強をすることで差がなくなるという研究結果もある。

小学生に外国語を教えると、外国語学習や外国人への態度は向上するというのが過去の研究の大勢。しかし、英語学習をいれたことで英語嫌いが増えたというケースもある。英語で世界と繋がれるということを示すべき。(伊地知:外国語学習という意味ではそうだけど、the courageとして、そこが最大のポイントではなく、やっぱり自分自身で自分の人生の舵取りをするということが大切だと感じる。中国14億人とコミュニケーションが取れる!もそうなんだけど、それに心が動くかどうか。)

小学校英語の現行の指導要領は英語そのものは教えなくても良いとなっている。

子供は明示的ではなく暗示的に言語を習得する力が大人よりも優れているので、インプットモデルで、具体的には、ジェームス・ アッシャーのTotal Physical Response(TPR=全身反応教授法)とパッツィ・ライトバウンらの自主的読書教育が望ましい方法だと考えられる。

・TPR
動詞中心の言語活動が続くので、文の構造、特に予測文法(英語を聞いて、次にどんな言語的要素が来るか予測する能力)が身に付くという効果がある。

実際の動画:https://www.youtube.com/watch?v=1Mk6RRf4kKs&t=170s

中国語版:https://www.youtube.com/watch?v=SpsT9czPgww&t=118s

・自主的読書教育
簡単な英語の読み物をたくさん用意し、テープを聴きながら個人で自由に読む学習活動。教師の役割は生徒が自由に読んでいくのをサポートすること。最初は絵本など、言語の情報なしで理解できる教材から始め、徐々に言語に頼る部分の多いものを増やしていくという方法がとれる。

・その他

https://grapeseed.com/jp/

日本人先生の発音が悪くても、ネイティブの発音に多く触れる機会が保証されていれば気にしなくても、子供はモデルとすべき発音とそうでない発音を区別できる。

まとめ(真理ではなく、現段階の研究にもとづいて言える小学校教育でやると良いこと)

(1)早期教育をするならインプットの量を増やす必要がある
(2)週に一時間程度学習しても他教科に悪影響はない
(3)先生の発音は完璧である必要はない
(4)インプット (聞くこと、読むこと)を中心に
(5)文字はテストをせず、音声中心の活動の中で周辺的に提示し、自然な習得を促す
(6)外国語活動を通して、英語を話すということが世界につながっていくという国際的志向性を養う

第4章 中学校英語教育のこれから~「流暢さ」と「正確さ」のバランスが大事~

中学から英語嫌いになることが多いので、そうならないために文法訳読方式よりもコミュニカティブ・アプローチの方が良い。つまり、完璧を求める「自動化モデル」ではなく、今持ってる知識でのインプットで習得していく。それでも質が重要で、決まり文句のゲームだと本当の言語能力は身につかない、初期で正しさを軽視すると長期的には伸びないという研究もある。

だから、コミュニカティブ・アプローチを基本にしながら正しさにも目を向けさせる「流暢さ」と「正確さ」のバランスをとることが必要。

間違いは徐々に自然になる。固定されてしまわないように注意すれば良い。具体的には意思伝達ができているかで加点する。「通じるかどうか」の視点を入れる。

インプット=インターアクションモデルの例
新しい文法項目を母語で説明→その文法項目を使ってクラスメートにインタビュー(トピックは友人や授業など)→その内容を文に書いて提出。各課でダイアローグを準備しておいて、それを暗記して使う。1ヵ月くらいから効果が出てくる。(伊地知:ちょこっと会話とか使って、文法講座の最後にやってみたいな)

田尻悟郎氏のウェブサイ ト
https://sc.benesse-gtec.com/tajiri/guidance/katudou/katudou.htm

指導法の評価について
顧客満足度と実際に外国語能力が身についてるかどうかの2軸

インターアクションモデルは「意味交渉」を行うので、ある程度アウトプットを強制することになる。情意フィルター(affecuve mter)」といって、不安度が高かったり、動機づけが低かったりすると習得できないというもの。なのでペアワークなどでリラックスした状態を作ると良い。強制しないという考え方が重要。また、誤った表現が出ないように注意することも必要。

文字と音声の関係をどうつかませるか

英語の綴りと発音の関係は非常に不規則で、複雑だという事実です。英語母語話者の失読症(dyslexia)の率が、綴りと発音の関係がより規則的な言語 (日本語やアラビア語)に 比べて高いのは、その複雑性のせいだといわれるほど。スペリング能力と英語力もあまり相関がないという研究もある。なので、ここではtakeをタケと読まないように、たくさん例を出して教える必要がある(フォニックス全てを教えなくても良い)。また、ルールで全て割り切れずに、例外があるということも教えておかないと、例外で挫折してしまうこともある。

第5章 高校英語教育のこれから~大量のインプットと少量のアウトプット~

SLA理論ではインプットの重要性がすでに定説

先生から以外でも音声教材や映像教材でもインプットできる。生徒同士のインターアクション(意味交渉、会話への参加)も有効。その中で全く日本語を使ってはいけないということではない。文法説明などは日本語でやった方が良いこともいくらでもある。

頭の中で英語がactivate(活性化)されていれば良い。先生の発音が悪いとか、間違えるとかは気にしなくて良い。学習者の頭の中を英語にするという認知プロセスが大切。

実際の例

理論的背景はクラシェンの「ナチ ュラル・アプローチ」で、「教室は理解可能なインプットを与える場としてとらえ、文法は家庭学習にまわす」という考え方。文法授業の一部をサイドリーダーに週1時間、年間10冊程度、試験の30%もここから。内容正誤問題(TF)などを試験で出すので、何度も何度も読んで来て欲しいとつたえる。クラス内では、音声→TFを外国語で→黙読→TF(ここで達成感あり)精読と多読も行うことで文法処理も促した。

多聴多読の進め方

リーディングラボを作って、そこに高校生が興味を持ちそうな「易しい」読み物を多数用意して自由に読ませる。音声教材も一緒に。

5文型の扱い

レキシカル・アプローチ
言語とい うのは、単語によってどういう文型を使うのかがものすごくはっきりしている。例えば動詞ですが、 どういう動詞が来たらこういう文型になる、ということがかなり決まってることに注目。でも5文型は抽象的で相反する。

著者的には構文そのものが意味を持つことがあるから5文型廃止は反対
Open me a beer. = Open a beer for me.
Open me the door. = Open the door for me.

2つは矛盾しないからコロケーションなどをインプットと、意識化(教える)ことで理解するのが良さそう。

英語嫌いはどうする?

コミュニカティブ・アプローチの方がいい とは言つても、た
だ単 にコミュニケーシ ョン活動をやれ、ではだめで、アクテイ
ビティをやる時に、はっきりとした指示を出 して、生徒がきち
つ とで きるような形 を保証 してや るということが ものすごく大
事ではないか と思います。まず、授業が成立するような面白い
活動を多数ス トックしてお く。そして次の段階 として、 どのよ
うなタスクをすれば、 より学習事項が定着 してい くか検証 して
い くことです。その際、文法的正 しさばか りに目が行きがちで
すが、それよりも、意思伝達ができているか という観点で全体
的に評価 してあげることが重要で しょう。

サイドリーダーでやったこと

a.Pre― question(先 に内容理解の質問を与 えて集中させ る)
b.hstenmg(テ ープもしくは教師)
C.Quesions(TFな どで理解度チェック)
d.Snent Reading(速 読を目標 とす る)
e.Quesuons(cで も質問に 1問加 える)
1日 本語で内容説明 (全訳は しない)

(伊地知:これショート・ショートでぜひやりたい!)